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法改正による個人信用情報の利用目的の大転換②

もう一つ不可解なことが割賦販売法の施行前に決まりました。割賦販売法のような特別法は、本法は国会で決議されますが、運用に関する施行令(政令)と施行規則(省令)は所管する役所において決定されます。役所においてとはいいますが、勝手に所管課が書いて決めるのではなく、たいていの場合は審議会がその検討の場ということになります。割賦販売法の政省令を検討するのは、経産省に設置された消費経済審議会割賦販売部会です。この審議会に与えられた権能はそもそも法律の政省令に関することで、個人信用情報の問題について検討する場ではありません。

ところが、法律施行の前年にあたる二〇〇九年の年末に開かれた会合で、事務局から「この会議の権能外ですが」といった断りはあったものの、「クレジット信用情報の保護について」という議題が提出されました。その論点は、「本人の同意により特定された利用目的の達成に必要な範囲での、業態の異なる信用情報の交流については、新たに本人から同意を取得することが困難であることに鑑みると、当分の間は、以下のように行われる必要があるのではないか」というものです。結論をいうと、委員からいくつかの意見はありましたが、反対する意見はありませんでした。

それどころか「貸金業の専業者がクレジットに係る信用情報というベースを見られるというのは非常に嫌な気がします。この辺は交流できるハードルを高くしていただくか、本来はブラック情報止まりにしていただきたい。貸金業専業者全部が悪いということではないのですが、中には貸金業の登録だけして、こういう個人情報だけを短期に集めて、本来の貸金業を営まない事業者なども出てきたりするのが不安だという点で、そのように感じました」といった発言までありました。その結果、事務局提出案どおり貸金業者の情報と物販系のクレジットに係る情報は分断することになりました。これによってどのようなことになるかというと、次の二点です。

①クレジット業及び貸金業の”兼”業者は、これまでと同様に、クレジットに係る信用情報及び貸金に係る信用情報の双方を、兼業の範囲で、消費者からの同意を得て、信用情報機関から入手できる。

②クレジット業の”専”業者はクレジットに係る信用情報、貸金業の”専”業者は貸金に係る信用情報の入手に限定される。

要するに、これまで長い時間をかけて業態の垣根を越えた全面交流を目指してきた個人信用情報ですが、法律でもなく運用の世界で扉を閉ざしてしまったものといえると思います。これによって個人信用情報に関する新しい環境ができたわけですが、そうすると必ずその隙間をこじ開ける者が出てきます。

法改正による個人信用情報の利用目的の大転換①

改正された貸金業法と割賦販売法は、消費者に対する与信額について具体的な数値基準を設けました。貸金業法では総量規制といい、割賦販売法は支払い可能見込額といいます。どちらも目的としているのは、利用者を多重債務者にしないことです。こういった規定が盛り込まれたことによって、個人信用情報機関が従来目的としていた不良債権の排除といった考え方は隅に追いやられ、消費者を多重債務者にしないことが大きな目標となりました。不良債権=多重債務者でもあるわけですから、目的は同じで少し方法論が違っただけという見方もありますが、業界の審査基準がまったく従来のものとは異なることになったのです。

一番重要なことは、従来は、基本的には各社の審査基準というのは各社によって異なるものだったのですが、この法律改正以降、それは多少の誤差程度の違いになってしまい、「法定の基準」になったということです。つまり個人信用情報機関は、クレジットの契約内容と残高情報を管理する機関になったのです。その結果、日本信販(現三菱UFJニコス)の創業者である山田光成氏が創業期に掲げた「勤続三年妻子あり」というなんともヒューマンな匂いがする審査基準は、そのかけらすらなくなってしまったのです。さて、話が少し先に進みすぎてしまいましたので戻しましょう。

貸金業法と同じように二〇〇八年に改正された割賦販売法も、個人信用情報機関の指定制を取り入れました。貸金業法の改正から一年遅れて改正された割賦販売法は、規制の内容も貸金業法に似通ったものになりましたから、それ自体はたいした問題ではありません。問題は運用です。割賦販売法の指定個人信用情報機関に認定されたのは、シー・アイ・シー一社でした。独立系業界横断型のセントラル・コミュニケーション・ビューロー(CCB)と合併していた日本信用情報機構も認定を目指しましたが、指定要件を満たすだけの割賦に関する残高がなかったので、認可には至りませんでした。

CCBは独立横断型の会員構成で貸金業の大手、クレジット会社、それに銀行も一部加盟していました。こういった機関をオールジャパンで、一つか二つ作ってそこで対応していれば、法規制を機関の運営にまで持ち込まれることはなかったかもしれません。しかし、そういった合意はどこの業界も似たようなものですが、なかなか得られるものではありません。結果的に日本信用情報機構は、CCBを合併して割賦販売法の指定個人信用情報機関の認定を目指すのですが、結果は先ほど書いたとおりのことになりました。残高不足の件は業界がその気になればどうにでもなったはずですが、業界にその気がなかったということかもしれません。また当時は、消費者金融業界もキャッシングを扱うクレジット業界も、貸金契約の過払い金問題でかなり傷んでいましたから、その余裕もありませんでした。

法改正によってタテ割りが固定

行政の報告書の提言どおりとはいきませんでしたが、CRINの開始によってわが国のクレジット業界が大きな一歩を踏み出したことは間違いありません。CRINの開始後わが国経済はバブル経済に突入し、多重債務の問題はそれほど大きな問題にはならなかったように思います。景気が良くて収入が増える循環は、クレジットには最もいい環境だからです。ところが一転してバブル経済が崩壊すると、「カード破産」が問題視されるようになります。ちょうど一九九二年ごろのことですが、この年にクレジットカードの発行枚数は二億枚を超えるようになりました。クレジットカードを発行する会社も大幅に増えました。

カード破産とはいいますが、それを後押ししたのはキャッシングの利用であって、その返済のための貸金業着からの借金であることが一般的です。そうなると貸金業者の個人信用情報が持つ価値は、他業者にとって極めて高いということになります。すでに事業を開始していたCRINにおける情報登録の原則は「一情報一登録」というもので、この原則に従っている限りは他機関の登録されている残高情報、すなわち無事故の情報を交換することはできません。そこで浮上してきたのが、複数の情報機関に加入して、事実上の残高情報の交流を進めるという考え方です。

もちろんCRINの中で残高情報を交流させるという考え方もあったのですが、この間題を検討していた「個人信用情報保護・利用のあり方に関する懇談会」は、複数加盟のスタンスを明確にしたのでした。この懇談会は、金融庁と経産省が初めてクレジット問題を共同で取り上げ検討したものでした。それだけ画期的だったということができます。この懇談会の報告は、テラネットという新しいタイプの個人信用情報機関の設立を促しました。二〇〇〇年に営業を開始したテラネットは、全国信用情報センター連合会が持つ個人信用情報を他業態の会員用のデータベースに作り直し、それらを交換することによって、複合入会と同じ効果を持たせることを可能にしました。

その情報を利用したいカード会社などの他業態の会員はテラネットに入会する、という仕組みです。ただし、他業界とはいっても金融機関は入っておらず、消費者金融の情報も残高なしの件数だけのものでした。かなりのカード会社が参加しましたが、二〇〇三年に個人情報保護法が制定されて、これまでの自主規制と行政指導だけだった時代から法規制の時代に移行したこともあって、不参加だった会社もたくさんあります。個人情報の利用に関する同意が取れていないというのが懸念の材料でしたが、役所からの指導もあったといいます。また、テラネットの開始前にあたっては消費者金融業界内に、他業態に情報を開放することに反対する意見も根強くありました。

残高のみとはいえ、テラネットのアイデアは斬新なものでした。ところが二〇一〇年に貸金業法が施行になると、状況は大きく変わります。法律が個人信用情報機関を指定して、貸金業者にそこの利用を義務づけるという規制です。法律によって貸金業登録を受けていれば、貸金業法が指定する個人信用情報機関に入らなければならなくなったのですから事態は一変です。このときに指定個人信用情報機関に認定されたのは、貸金業系の株式会社日本信用情報機構と物販系の株式会社シー・アイ・シーの二社です。貸金業法の規定では貸金に関する情報は、指定個人信用情報機関において交換することになっていますから、どちらかに入っていれば確実にすべての情報を把握することが可能になりました。

個人信用情報機関の転機

OECDの八原則に三年遅れて貸金業規制法(現:貸金業法)が議員立法により制定され、その翌年には割賦販売法の大改正がありました。これによって物販のクレジットは経産省、貸金のクレジットは大蔵省(現:金融庁)というスタンスが明確になります。その後今日に至るまで、両省のクレジットに対する取り組み姿勢はつかず離れずの状態が続いています。特に個人信用情報の問題については顕著です。クレジットを所管する経産省や金融庁の他にも経済企画庁(現:消費者庁)、総務省も個人情報保護に関して種々の検討の機会を設けて報告を取りまとめています。

これは、OECDの勧告もありましたが、貸金業法の制定でわかるように多重債務が社会問題化したからです。基本路線は、貸金、物販といった区分けをせずに広く総合的に個人信用情報を扱うべき、ということに尽きます。例えば一九八四年に大蔵省内に設置された金融問題研究会は「我が国における消費者信用のあり方」という答申を出していますが、そこには以下のように書かれています。「個人信用情報の有効な活用は、貸倒や延滞の発生を防止し、貸倒リスクの管理・回収コストを減少させるので、金融機関や与信業者が消費者信用に取り組むに当たっての重要な要件である。

消費者信用市場の個人信用情報ができるだけ統合的に利用されること、及びできるだけ多くの借入申込者について個人信用情報機関への登録・照会が行われることが望ましい。」一方、経産省においても一九八三年にまとめた消費者信用産業懇談会報告書の中で、趣旨としてはほぼ金融問題研究会の報告と同じですが、個人情報機関の整備の方向性について次のようにまとめています。「個人信用情報の内容は、基本的には、クレジット、消費者金融とも同質であることからみれば、将来的には、双方の情報を総合的にとらえるべきであろうが、さしあたってクレジット分野について着手すべきであろう。」この二つの報告を実践するための第一弾として、物販分野の個人信用情報機関の統一が行われました。

すなわち信用情報交換所と株式会社日本信用情報センターの合併によって、株式会社信用情報センター(現:株式会社シー・アイ・シー)が一九八四年に設立されました。さらに各地で設立されていた貸金業界の情報機関の連合組織である全国信用情報センター連合会が、株式会社日本情報センターを設立しました。この段階でわが国の個人信用情報機関は、物販分野のシー・アイ・シー、貸金分野の日本情報センター、銀行分野の全国銀行協会個人信用情報センター、それに業界横断型のセントラル・コミュニケーション・ビューローの四つに集約されたことになります。そこで、消費者信用を専業とする株式会社シー・アイ・シー、株式会社信用情報センターに全国銀行協会個人信用情報センターが加わって、三機関による個人信用情報の交流業務「CRIN」が開始されました。

ただし、ここで交流されたのは異動情報といわれる不払いや貸し倒れの事故情報のみで、無事故の情報は交流の対象とはなりませんでした。とはいえ、これまで同じ席に着いて話をしたことすらない三つの業界が揃い踏みしたということには、大きな意義があります。ホワイト情報の交流については、CRINが開始された一九八七年に大蔵省の金融制度調査会がまとめた「消費者信用のあり方について」という報告の中で、異動情報に限定するのではなく無事故の情報についても検討する必要があることを提言しています。

消費者金融業界の個人信用情報機関

消費者金融の業界のこのような状況下で、個人情報問題でエポックメーキングな出来事がありました。経済協力開発機構(OECD)のプライバシー保護に関する理事会勧告が発せられたのです。急速に進むコンピュータ化の進展に伴って、個人情報の扱いがこれまでの伝統的な個人の権利の枠を超えてきたためです。しかも、簡単に国境を越えることも簡単になりました。わが国のように島国で日本語という特殊な言語の国の場合は、それほど緊迫した問題としては感じることはできませんでしたが、欧米ではすでにプライバシー保護に関して立法化も進んでいたのでした。OECDの理事会勧告は、加盟各国に個人データ処理に関して立法を図る上で採用しなければならない原則として次の八つの項目を掲げました。

①収集制限の原則  データの収集は無制限ではなく、法律の規定や本人の同意が必要であること。

② 内容の原則  データの収集がその利用日的に沿ったものであり、かつその範囲内でデータ内容が正確、最新であること。

③目的明確化の原則  データを収集する際、データを利用する目的を明確にすること。

④利用制限の原則  収集目的以外の利用を禁止すること。

⑤安全保護の原則  データの漏洩や不当な利用に対して必要な保護措置が必要であること。

⑥公開の原則  データにかかる政策や運営が、国民一般に対して公開されている必要があること。

⑦個人参加の原則  データ主体が自己のデータにアクセスすることができ、異議の申し立てができる権利が認められていること。

⑧データ管理者の原則  データ管理者は、以上の諸原則を実施するために国内法上の措置を遵守する責務があること。

わが国では、二〇〇三年に個人情報保護法が制定されましたが、この内容に沿ったものになっていることはいうまでもありません。会社のホームページを見ると、どこもプライバシーポリシーを掲げています。よく読むと、この八原則に沿っていることがわかります。