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消費者被害防止法という新しい概念

二〇〇八年に改正された割賦販売法が、法案改正のための審議会の報告内容を超えたものであったことは、以前に書いたとおりです。それは前年に行われた貸金業法に大きな影響を受けたことは間違いありませんが、消費者庁設置の議論が当時の福田総理大臣の肝入りで検討されていたことも影響しています。消費者庁設置は二〇〇八年一月十八日の通常国会冒頭の施政方針演説で、当時の福田総理大臣が「消費者行政の司令塔として、消費者の安全、安心にかかわる問題について幅広く所管し、消費者の視点から監視する強力な権限を有する消費者庁を来年度に立ち上げ、早急に事務作業に着手する」と述べたことが契機です。

これまでさんざん消費者間題を引き起こしてきたクレジットですから、消費者庁が設置されれば真っ先に問題にされるであろうことは誰しも想像できました。結果的に、これからいくつかのポイントをかいつまんで説明しますが、単なる消費者保護法の枠を超えて消費者被害防止法といった方がいいような法律になったのです。つまり消費者金融も物販のクレジットも、いつ消費者に危害を与えるかわからない危険なものだと認定されたも同然です。改正法の目的規定に、「購入者等が受けることのある損害防止」という言葉が追加になったことで、それはわかってもらえると思います。

改正法の第1条(目的及び運用上の配慮)を再掲します。この「購入者等が受けることのある損害の防止」という言葉は、すでに「特定商取引に関する法律」(特商法)の目的規定で使われているものです。これまでも割賦販売法と特商法は同時に改正されてきましたが、それに合わせたことになります。特商法は規制法ではありませんが、事実上規制法的な要素もある法律です。行政指導も最近では年に約一〇〇件も出されるほど頻繁にあります。

トラブルの多い傾向にある特商法開連の業者との取引が多かったのが個品割賦でしたが、クレジットはそういった取引と同類の扱いになったということです。これで割賦販売法は、一九六一年の制定時に「取引秩序法」だったものが、一九七二改正で「消費者保護法」に衣替えし、二〇〇八年の改正でさらに一歩踏み込んだ「消費者被害防止法」となったことになります。つまり、一九七二年改正時に挿入された「購入者等の利益」と、二〇〇八年改正で追加になった「購入者等が受けることのある損害の防止」が並立する状態になったのです。

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個品割賦の場合の支払可能見込額

個品の場合もほぼ同様の支払可能見込額制度が導入されました。何度も書きますが、この法律の制定のきっかけになったのは一部の業者による行き過ぎた個品割賦の営業姿勢です。ですから本来であれば、個品割賦にだけこの支払可能見込額を導入してもよかったように思うのですが、割賦販売法は、個品とカードが同じ体系(あっせん型クレジット)の中で扱われているので、このようにクレジットカードにも適用される結果となります。ちょっと視点を変えて考えてみます。この支払可能見込額は与信できる限度額を緩めると、多重債務の問題はここでは考慮外とすることにして、もっと与信が増えるかもしれません。

逆に締めると、与信は減るかもしれません。すると運用は簡単ではないかもしれませんが、以前に紹介した頭金の額と支払い回数に規制を設けることによって景気を操作しょうとした、標準条件と同じような効果を期待できるかもしれません。もちろん運用はそれほど簡単ではありませんが、そういった使い方もあるのではないかと思っています。クレジットカードは、利用限度額が小さい場合など支払可能見込額の調査をしなくていい場合がありますが、個品割賦には適用除外にされている商品があります。一つは携帯電話です。法律には、「10万円以下で生活に必要な耐久消費財を店頭で購入する場合」と書いてあって、この法律に該当する商品は何かと考えると携帯電話になります。

携帯電話はちょうど法改正のころ、売り方が変わって電話機の割賦による売り切りが主流になりました。改正法では個別信用購入あっせんを業とするには当局への登録が必要で、さらに個人信用情報機関の利用が必須になっています。したがって携帯電話会社はどこも個別信用購入あっせんの登録業者になっています。ここのところのスマートフォンの急速な普及で、携帯電話の需要は爆発的に増えています。この売り切りという仕組みは、電話料金と電話機のクレジット代金も一緒に払うものです。電話料金の支払いが滞るということはクレジットの返済も滞るということになるので、たかが電話代だと思っていると大変面倒な事態に陥ります。払わないでいると、クレジットの不払い記録が個人信用情報機関に登録されてしまうのです。払わないのが悪いのですから当然といえば当然なのですが、前代未聞の情報が発信されました。

割賦販売法の認定協会である社団法人日本クレジット協会が、クレジットで携帯電話を買った人向けに「不払いをすると個人信用情報機関に登録される」と、わざわざ情報提供をしたのです。不払いする人の認識不足といえばそれまでですし、情報提供の仕方が悪いといういい方もありますが、そもそもその程度の金額ですから念入りに規制対象にするほどのこともなかったのかもしれません。さらに二〇一三年には政府広報でもこの間題を取り上げました。生活必需品ということで枠から外されたもう一つの商品は自動車です。これには業界からの猛烈な巻き返しがあったといいます。大都会に住んでいると、自動車がないからといって生活ができないということはありません。ところが地方へ行くと、ないと買い物にすら行けないのですから死活問題です。しかも都市部よりも低所得であることが一般的です。

支払い可能見込額を超えるので自動車をクレジットで買えないという事態が発生すると、地域の人の生活にダイレクトに影響を与えます。一九七二年の自動車はクーリングオフの適用除外になっていますが、このときも自動車業界の政治力が働いたといいます。携帯電話会社に政治力があったらどうなっていたのだろうかと思います。ただし、携帯電話会社にとってはそれなりに都合のいい面もありますから、一面的な評価を下すことはできません。ルールを変更するといろいろ弊害が生じるのは当然ですが、ルールを変更しなかったことによって起こる現象もあります。「クレジットカードショッピング枠現金化の問題」です。どう考えてもキャッシングできるのであれば、損を承知で現金化を使うことは考えられません。


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支払可能見込額の導入

二〇〇八年改正の目玉ともいえるのが支払い可能見込額です。貸金業法の総量規制は、顧客の年収を基準にその三分の一までを貸し付けの上限とするというものですが、割賦販売法の支払可能見込額は、それとは違ってかなり複雑です。簡単に説明すると、年収からあらかじめ居住形態別の居住費(基礎部分)を考慮に入れた生活維持費(法定)をマイナスし、さらに現在のクレジット債務をマイナスした額が年間の支払可能見込額となります。これは個品割賦の場合なので、クレジットカードの場合はこの額の90%になります。貸金業法の総量規制は一定時点の債務残高が年収に対してどのくらいの割合になるかが基準なので、いわば貸借対照表的な考え方になりますが、割賦販売法の支払可能見込額は一年間の支払い総額ということで、損益計算書的な発想に基づいています。

個人の家計をこのように単純化し数値化することは一見机上の空論のようにも思えますが、生活維持費に住居関係費を考慮に入れたのは、クレジット債務とは別枠にとらえたからと思われます。また、前出の法改正の契機になった認知症の老姉妹が住宅を競売にかけられそうになった一件も影響していると思われます。経産省が編集している『平成20年版割賦販売法の解説』には、支払い可能見込額の導入の趣旨を「クレジット債務の返済のために生活維持費まで奪われることになるということは、多重債務者対策の本旨にもとることにもなりかねないことから、包括支払可能見込額を算定するに当たっては生活維持費を除くこととしている」と書いてあります。

要するに、割賦販売法も貸金業法も多重債務対策の一環として改正されたわけです。貸借対照表的に個人の債務を把握するのと、損益計算書的に個人の債務を把捉するのでは、どちらが優れているかはなんともいえません。クレジット債務は、取締役会があって意思決定する企業とは異なり気まぐれな支出を平気でする個人の債務です。それをこのように数値化するというのは、あまり現実的ではないように思っています。もし数値化するのであれば、クレジット債務が個人の中で貸金業法と割賦販売法の債務といった具合に分けられていることはないのですから、どちらか一方に統一すればいいのであって、同じ債務に二つの基準を設ける理由は、消費者目線で見る限りどうにも理解できません。
 
①割賦販売法で総量規制が適用されるのは、新たにクレジットカードを発行するときと、限度額を引き上げるとき。
②年収、預貯金、クレジットカードの債務の状況、借入れの状況(省令事項)を調査し、「包括支払可能見込額」を算定する。
③そして「包括支払可能見込額」とは、利用者側から見て、住宅を担保に供しなければならないような額ではなく、一年分の生活維持費(省令事項)に食い込むような額ではなく、それに大臣が定めた一定の割合(五〇%)を乗じた額で返済に充てられる額とする。
④この限度額を超えるクレジットカードの発行等をすることはできない。

この場合の限度額というのは、割賦販売法が決めているのですからリボや分割の限度額のことで、すっきりと一回払い専用のカードを出すとすればこの条文の影響は受けません。ついでに書いておくと、改正法が国会で成立した際の衆議院での付帯決議に「支払可能見込額の調査に当たっては、利用者等の預貯金額等のプライバシーに過度に立ち入ることのないよう指導すること」とあります。つまり、それは見なくていいというのと同じです。もし本気で法律の遵守を求めるとしたら、クレジットカードを発行するときは、銀行通帳のコピーを提出させなければできないことになります。どう考えても現実的ではありませんが、国会の付帯決議で否定するくらいなら最初から条文に入れなければいいと思います。

一九八四年の割賦販売法改正

ここで登場するプレーヤーは、カード会社、利用者、加盟店の三者です。カード会社が利用者から代金の返済の受け方以外は、割賦販売法が制定された五〇年前と基本的なところは何も変わっていません。ところが現実の問題として、純粋にこの方式で決済されているケースはそれほど多くはありません。ほとんどは、国際ブランドを利用してカード会社がイシュアーとアクワイアラーに分化した取引になっています。従来「割賦購入あっせん」で同じ「項」にひとくくりにされていた「個品割賦」は「個別信用購入あっせん」という名称に変わって、「クレジットカード」は別の「項」に収められました。定義以外にも個別信用購入あっせんと包括信用購入あっせんは、ほとんど別の規制体系といってもいいような法律構成になっています。

その意味からも、先ほど書いたように、別の法律にした方がいいように思います。定義の変更は、たいていの利用者にはそれほど大きな影響のあるものではありません。定義の変更によって何が変わるかというと、一番大きいのは支払い停止の抗弁です。これは一九八四年改正で導入されたもので、買い物に瑕疵があった場合は支払いを拒む権利があるという規定です。個品割賦の場合は金額がそもそも大きいし、特商法関連の取引も多かったことから、消費者トラブルに発展するケースはカードに比べてはるかに高いものでした。消費者センター等の相談機関に持ち込まれた場合にどのように解決するかというと、まず最初に支払い停止の抗弁の適用があるかどうかを考えます。

たいていの個品割賦は分割払いでしたから、ほとんどの場合は適用になりました。指定商品に該当するかどうかという問題は残りましたが、これもそれほど大きな問題にはなりません。かなり大ざっばですが、ほとんどは支払い停止の抗弁の対象になるので、その先その契約を解除するのかどうかが論点でした。ところが、カードの場合はほとんどが一括払いで利用されていて、利用される場面も店頭販売がほとんどですから、支払い停止の抗弁の出番はそれほどありません。唯一あるとすれば、ネットで出会い系等のダウンロード商品を買い物した場合です。「出会い系サイト」は「出会えない系サイト」といって、かなりの確率で詐欺に近い商品です。

こういった商品はネット決済、一括払いで利用されることになるので、何か問題があっても法的にはカード会社の請求権は正当なものです。ところが会社によっては、こういった場合も支払い停止の抗弁を認めることがあります。理由は、少額でもあり面倒というところに尽きるようです。こういった事例が集積される消費者センターにおいては、対応する会社は「いい会社」で、対応しない会社はダメな会社と評価することがよくあります。しかし、この評価は正しくありません。いい会社と評価される会社は、面倒なことが嫌いなだけであったりすることが多いからです。

個品とカードが別の規制体系に

個品割賦は、一九八四年の割賦販売法改正時に割賦販売法に取り込まれたものです。当時の個品割賦は、クレジットカードとほぼ同様の機能(繰り延べ与信)を消費者に提供していましたが、昨今ではかなり性格の違いが明らかになっています。すなわち「個品=繰り延べ」「クレジットカード=決済」です。当時のクレジットカード発行枚数は六〇〇〇万枚ぐらいで、現在の六分の一ぐらいのものでした。業界への影響も少ないということで特に大きな議論もなかったように思いますが、やはり個品割賦とクレジットカードは消費者に提供しているものがいささか異なります。

この間題を解決するためには、個品割賦とクレジットカードの規制体系を別ものとして、クレジットカードをその他の決済手段(デビット・電子マネー)と合わせて、ペイメントカード法に統合するという考え方はあるのではないかと思います。割賦販売法第2条は定義になります。大きな概念変更があり、「カード」という言葉が同法で初めて使用されました。また、従来の分割払いの定義である「二月以上の期間にわたる三回以上の支払い」が変更になって、利用日から返済日まで二カ月を超えるカード決済は、法の対象となりました。

これによってボーナス一括払いや、一部のクレジットカードにおける一回払いでの利用も法の対象となりました。法の対象となるということは、割賦販売法の消費者保護規定が適用になるということです。ちなみにクレジットカードは従来、総合割賦購入あっせんといわれていましたが、今回の改正で「包括信用購入あっせん」が法律上の正確な名称になりました。この条文は、次のように構成されています。

①カード会社がカード等を利用者に交付
②利用者がそれを提示等して、カードを利用(買い物)
③カード会社は当該加盟店に当該利用の代金を立て替え
④その代金をカード会社は利用者から受領(③から④までの期間が二ヵ月を超える場合は法の対象になる)

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